家族信託を確実かつ効果的に実行するための7箇条
家族信託は、所有者(委託者)の“想い”を実現し、長期にわたり多額の財産を管理・承継していく仕組みですので、後々の親族間の紛争や確執を起こさないような工夫、“想い”きちんと実現できるような工夫が必要です。
下記にそのためのポイントをあげたいと思います。
(1)家族・親族が納得のできる仕組み作り
家族や親族、特に推定相続人の全員にとって、納得のいく信託スキームが理想といえます。
推定相続人全員の利害と委託者の“想い”は、必ずしも同じ方向を向いているとは限りませんので、良かれと思って設定した信託契約(または遺言による信託)が、結局遺産争いを誘発することになっては、本末転倒になりかねません。
遺言書の中で信託を設定することもできますので、家族に内緒で信託を設定することも可能ですが、受益者の相続発生時には、遺留分の問題も出てきますので、遺留分の確保も考慮に入れた信託設計にしたいものです。
可能であれば、家族とも話し合いの上、皆が納得した仕組みを構築するのが理想的です。
(2)チェック機能(監督機能)を持たせる
家族信託の場合、大切な財産を託す(預ける)相手(=受託者)は、家族等の一般個人(素人)ですから、受託者固有の財産との分別管理がずさんだったり、魔が差して資産を勝手に消費・横領したり、リスクの高い投機的商品に多額を投入するという可能性はゼロではありません。
受託者が暴走しないように、あるいは受託者が判断を迷った時にサポートできるように、受託者の業務が他人の目に触れるような仕組みを作れると安心です。
例えば、受託者を一人ではなく複数受託者にすることで、受託者同士が相談し合い、時には相互にチェックし合い、また時には共同で財産の管理・処分を行うように制度設計できます(受託者が多いと反対に財産管理が紛糾しかねないので、通常は二人程度が良いでしょう)。
また、「信託監督人」を置くという選択肢もあります。
信託監督人は、成年後見制度でいうところの「後見監督人」的立場として、受益者のために受託者が信託目的に沿って適正に財産管理を行っているかを監督する機能を果たします。
それ以外にも、ここでは触れませんが、「同意権者」や「指図権者」「信託事務代行者」「受益者代理人」を置くことで、受託者が単独で信託事務を遂行できないように制度設計することも可能です。
(3)受託者の仕事ぶりを見極める
信頼できる相手だからこそ、受託者として自分の財産を“信じて託す”訳ですが、受託者としての働きぶりを見極めることができればより安心です。
つまり、遺言の中で信託を設定すべき特別な事情があれば別ですが、できれば「遺言」より「信託契約」により今から信託を発動させ、生前の財産管理を受託者に任せる方が、委託者としてはその働きぶりを見届けることができ安心です。
なお、そもそも受託者となるべき適任者がいなければ、親族で一般社団法人を立ち上げて受託者の受け皿を作ることや我々法律専門職や不動産管理会社等の関与を考えることも必要になります。
(4)予備的に“次の受託者”を決めておく
受託者が法人であれば別ですが、親族個人が受託者となる場合は、受託者の死亡や病気等による信託事務の遂行不能となる事態を予め想定しておくことも大切です。
信託法には、現在の受託者が死亡等した場合において、信託行為(信託契約書や遺言書)の中に新受託者に関する定めがないときや信託行為に定めた新受託者が受託者となることを引受けなかったときなどには、受益者は新たな受託者を選任することができることになっています。
しかし、受益者が高齢者や障がい者である場合もありますから、そう簡単に次の受託者の手配ができるとも限りません。万が一に備えて予め次の受託者(第二次受託者・第三次受託者)を定めておくことはお勧めです。
(5)成年後見制度との併用も視野に入れる
受益者の地位・年齢等にもよりますが、一般的に高齢の配偶者や障がいのある子を受益者として設定する家族信託は多いです。
この場合、成年後見制度に代えて家族信託という仕組みの中で財産を管理していくことは可能ですが、受託者に身上監護権はありませんので、もし受益者が入院・転院することになったり、施設入所することになった場合には、受託者は費用の支払いはできても法的な権限を持って入院契約や入所契約を結べる訳ではありません。
その場合には、やはり身上監護の権限のある成年後見人を選任する必要が出てくるかもしれません。
信託の受託者と成年後見人との間で利害が大きく相反するような状況に無ければ、受託者が成年後見人を兼ねることもできなくはありませんので、信託契約だけでなく可能であれば任意後見契約を交わすことも含めて検討することも大切でしょう。
(6)仕組みを複雑にしすぎない
長期にわたる財産管理の仕組みですから、将来における様々な不測の事態(受益者や受託者の死亡や受益者の離婚・出産・養子縁組等)を想定しておくこともあります。
ただし、あまりに色々な場合分けを考えすぎると、信託の設計自体が複雑になりすぎて、委託者も受託者もよく分からなくなってしまうことがあります。
現時点ですべてが万全・完璧の信託スキームを構築するというのは、非常に困難かもしれませんし、せっかくのスキームも受益者家族の事情の変化等で、結局見直さなければならないこともよくあります。
後々、信託契約の変更や遺言書の書換えで家族信託の内容を変更することは可能ですので、もし予期せぬ親族関係の変化が起これば、その都度見直すつもりで、なるべくシンプルな仕組みを考えましょう。
(7)定期的な見直し(メンテナンス)
上記(6)のとおり、信託の設計は極力シンプルにした上で、定期的に信託内容を見直すように心がけることの方が大切ですので、定期・不定期に法律専門家にみてもらうような体制作りが理想です。