信託は、多種多様な利用方法が考えられる非常に面白いスキームではありますが、万能な仕組みではありません。
したがって、使い方を誤ると大きなリスクを生じさせる可能性があります。
下記に代表的な信託の留意点を挙げますので、充分な検討にお役立て下さい。
課税対策の問題
信託スキームの利用自体は、それだけで税務的・経済的なメリットを生み出すものではありません。税金対策として、信託スキームをどのように利用できるかは、ケース・バイ・ケースのアイデア次第ですので、信託はあくまで“手段”といえます。
むしろ、受益者を誰にするかにより贈与税が発生することもありますので、充分な検討が必要です。また、後継ぎ遺贈型受益者連続信託を利用した数次受益者の設定は、その都度相続税課税の対象となりますので、相続税対策の面からは必ずしも効果的ではない(税務効率が良くない)場合があります。
遺留分の問題
遺留分に抵触するような遺言による信託の設定は、当然に遺留分減殺請求の対象になりますので、信託スキーム自体が遺留分減殺請求を遮断できるものではありません。遺留分まで考慮に入れて、慎重に遺言信託を組まなければなりません。
相続人間の紛争
前述の「課税対策の問題」と同様、“争族”対策として信託スキームをどのように利用できるかは、ケース・バイ・ケースのアイデア次第といえます。むしろ、信託により数次にわたる資産承継の指定をすることで、かえって“争族”を起こす可能性もありますので、充分な検討と親族(推定相続人)の理解が必要です。
報酬
親族等が信託受託者になるスキームであれば、1回限りで反復継続性がないので「報酬」をもらうことは問題ありません(信託業法に抵触しません)。
しかし、信託受託者に親族以外の第三者がなる場合には、「信託報酬」を貰うことは信託業法に抵触する可能性があります。したがって、親族以外を受託者とする場合、受託者の労に報いる対価の設定をどうするかを検討する必要があります。
成年後見人との関係
成年後見制度と信託スキームを併用することも可能ですし、そのメリットもありますが、成年後見人と信託受託者がうまく連携を取れないと、せっかく被後見人のために作り上げたスキームも無駄になる可能性があります。委託者と成年後見人と受託者の三者は、予め詳細な打合せをして、一致団結して受益者のための財産管理にあたる必要があります