後継ぎ遺贈型受益者連続信託とは
「後継ぎ遺贈型受益者連続信託」とは、現受益者の有する信託受益権(信託財産より給付を受ける権利)が当該受益者の死亡により、予め指定された者に順次承継される旨の定めのある信託のことをいいます。
受益権の承継は、回数に制限はなく、順次受益者が指定されていても構いません。ただし、信託期間は、信託法第91条により、信託がされたときから30年を経過後に新たに受益権を取得した受益者が死亡するまで又は当該受益権が消滅するまでとされています。つまり、30年を経過した後は、受益権の新たな承継は一度しか認められません。
なお、信託設定時において、受益者が現存している必要はありませんので、まだ産まれていない孫や姪甥を受益者として定めておくことも可能となります。
後継ぎ遺贈型受益者連続信託の期間制限
具体的な利用例
現行の民法では無効とされている数次相続における財産承継(“後継ぎ遺贈”)を実質的に可能にする手段として大変有効な信託ですので、遺言による信託又は信託契約の中でこれを設定することで、資産承継に悩んでいる方や「親亡き後問題」・「配偶者(伴侶)亡き後問題」を抱える方にとっても、そのニーズに応えうる信託と言えます。
例えば、財産管理が困難な高齢配偶者と障がいを抱える子がいる3人家族を想定しましょう。高齢配偶者の生活・介護・療養・施設入所等の費用、および障がいのある子の生活・教育・医療・介護等の費用について、自分亡き後の遺産を長期にわたり安定的に管理し、必要な費用を給付することが求められます。
この場合の対応策の一例として、委託者自身を第一受益者とし、委託者が亡くなった後は高齢配偶者を第二受託者とし、配偶者が亡くなったら障がいのある子を第三受益者とする後継ぎ遺贈型受益者連続信託を遺言代用信託において設定します(契約相手である受託者は、親戚や信頼できる司法書士等となります)。さらには、子が亡くなった時点を信託終了時とし、信託の残余財産がもしあれば、その権利帰属者に介護施設等を指定することまでできるのです。
注意すべきポイント
1)相続税の課税
受益者連続型の信託の場合、受益者の死亡による受益権の承継が発生する度、当該受益権(元本受益権+収益受益権)が財産権として相続税の課税対象となります。
つまり現行の相続税制においては、第二次受益者、第三次受益者・・・は、それぞれ相続税を納税しなければならない可能性がありますので、税務面からみた場合必ずしも効率的な仕組みであるとは言えません。
税務効率の視点だけではなく、誰のために資産承継を考えるかという視点が最も重要で、そのためには多少の納税負担はやむを得ないというくらいの姿勢が必要でしょう。
2)遺留分減殺請求の対象
信託による受益権の承継は、民法上の遺留分の適用を排除するものではなりません。
したがって、遺留分に抵触するような信託受益権の承継を定めていると、受益者の死亡による受益権の承継が発生する度、遺留分減殺請求を受ける可能性があり、信託財産からの精算作業が必要になる可能性があります。
3)信託期間
前述のとおり、後継ぎ遺贈型受益者連続信託は、30年という信託期間の制限があります(信託法第91条)。したがって、信託設定時に効力が発生する遺言代用信託の方が、委託者死亡により効力が発生する遺言信託より、信託期間が短くなるということになります。
遺言代用信託と遺言信託のどちらを選択するかは、個別案件の諸条件に応じでケースバイケースで対応する必要があります。